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(2013年9月3日)  食べ物江戸話し

 江戸後期、江戸浅草山谷に高級料理屋「八百善」があった。最初は八百屋を営む傍ら、仕出し店をしていた。やがて料理茶屋を開業、4代目栗山善四郎の代になって八百善は高級料理店として人気になる。善四郎は若い頃から旅が好きで各地の名物を食べ、旅日記に書き残し、一方、三味線、俳諧をたしなみ、これを来客に話し、益々評判を呼んだ。八尾善のそんな戒めの話を書いてみました。

 

幾ら金をかけても

ある三人連れの客が、「幾ら金が掛かっても良いから上手い茶漬けを造ってくれないか」と注文した。半日あまりも待たされた後で、瓜と茄子の漬物、そして茶漬けを出された。食べ終わり、勘定を聞くと何と一両二分(約22万5千円)。客は「あまりにも高いではないか」と言うと、「お客様は、幾ら掛かっても良いから旨い茶漬けをと、ご注文頂きましたので、茶は宇治から、この茶に合う水を多摩川迄汲みに行った早飛脚代であります。決して棒利している分けではありません」と言われ、現在でも、金に糸目はつけないからという注文は戒めの言葉になっております。

 

西瓜の話

夏の夕方、湯あがりのお客が店に入り、部屋に通されました。食台の上に西瓜を切って皿に盛られてありました。湯上りですから丁度良いと、その西瓜を口にしたのです。その時、女中が出てきて「お客様、西瓜食べてしまいましたか」。客は「丁度そこに西瓜が出ていたのでね」。女中は「私どもの店では、西瓜は食べる為に出したのではありません。蠅寄せの為に出したのです」と。がつがつして食べてはいけませんという話ですね。

 

豆腐

ある客が刺身を食べに入る。出てきたものは、豆腐が最初に出された。客は「俺は刺身を注文したけど冷豆腐なんか注文していない」と怒鳴りつけた。女中は「豆腐は食べる為に出したのではありません。刺身を食べると箸が生臭くなる為、豆腐に刺し臭みを消して食べて頂く為にお出ししたのです」。店に入れば知ったかぶりをせず、冷静に対応する。これがお客さんになる資格ではないでしょうか。

 

包丁を研ぐ

料理通の客が来店することを主人で料理人の善四郎は聞いていた。そこで念入りに包丁を研ぎ、鯛の刺身を出したところ、食通の客に「この鯛は鉄臭い」と言われてしまう。そこで善四郎は店の一番高価な椀を割り、この椀片で鯛の身をこそげ取って刺身にして出した。すると食通の客は大変喜んだと言われる。包丁は前日に良く砥石で研ぎ、綺麗に洗い、水分をふき取り、一晩置く事で臭みが無くなる。こうして若い料理人に教えている話ですね。